8月29日に幕を閉じた第103回全国高等学校野球選手権大会は、雨で7日の順延、新型コロナウイルスの影響など、さまざまな問題が浮き彫りになった大会だった。
前回は甲子園開幕前に行った優勝校予想を振り返った。今回は甲子園初日の開会式・選手宣誓を取り上げる。
103回大会の開会式は、雨のため1日遅れた。この時はまだ「7日間順延」などという思わぬ記録が達成されるなど、微塵にも思っていなかった。
8月9日に予定されていた開会式は1日遅れて10日に開催された。
昨年は新型コロナウイルスの影響により、交流試合は行われたものの、大会が中止。「甲子園」がようやく帰ってきた。そう感じた。
今大会の選手宣誓を務めたのは、石川県代表・小松大谷高校の木下仁緒主将。
まず初めに、次の言葉から宣誓を始めた。
「2年ぶりの夏の甲子園。世界に広がる困難のために、普段の生活すらできなくなった人が多くいます」。
いわゆる新型コロナウイルスの感染拡大で昨年予定されていた夏の甲子園ができなかったことについて触れた。
「世界に広がる困難」これは新型コロナウイルスのことを表しているといっても過言ではない。
「普段の生活すらできなくなった人が多くいます」
コロナでステイホームせざるを得なくなり、ストレスがたまる生活。今までの生活はどこかへ行き、新しい生活様式が広がっている。
その中で高校野球ができるというありがたさ。それがこの言葉に現れているのだろう。
「私たちも学校生活、部活動が2年前とは全く違ったものとなりました」
コロナは学校生活さえも変えた。オンライン授業の形態をとる学校が増え、不自由ではあれど学校に行かずとも勉強できるようになった。部活動も同じく、窮屈な活動を迫られている。
もちろん高校野球だけではない。剣道やバレーボール、陸上などの体育会系から演劇、茶道、美術部などの文化系まで影響を受けている。
どうしてもマスコミの報道ばかり見ていると、高校野球が大きく報道される。それは高校野球大会に新聞社が関わっているからに他ならない。
夏の甲子園は朝日新聞社が、春のセンバツは毎日新聞社が主催だ。マスコミが関わっていれば報じ方も大きくなる。それを頭の中に入れておいた方がよい。
少し話題がそれた。話を元に戻そう。
「1年前、甲子園という夢がなくなり泣き崩れる先輩たちの姿がありました。しかし、私たちはくじけませんでした」。
昨年の夏の甲子園の中止が発表されたときのこと。
ある監督が発した言葉に感動したことがある。
高知・明徳義塾の馬淵監督だ。今大会にも監督として参加している。
『高校野球の目的は「人間づくり」やから』『勝った負けた、甲子園に出場できるできない、レギュラーになったなれないと、いろんなことがあるけど、要は、世の中に出て通用するようなことをグラウンドで学ぶのが高校野球なんや』
『忘れんなよ。世の中に出ていろんな苦しいことがあった時に、耐えていける精神力をつけるというのが高校野球なんや』(朝日新聞デジタル・2020年5月21日配信)
「高校野球の目的は人間づくり」。甲子園がなくなったからといって自暴自棄になるなと話すその姿は、尊敬に値する。自分だったらそんな言葉は出てこない。素晴らしい人間性だと思う。
甲子園が中止になってもくじけなかった。他の部活動で頑張っている人たちもくじけずに頑張っているはずだ。
『「想いを形に」 この言葉を胸に、自分の目指すべき道を定め、友の笑顔に励まされ、家族の深い愛情に包まれ、世界のアスリートから刺激を受け、一歩一歩、歩んできました』
甲子園に出るという夢を形にする。この言葉を胸に抱きながら、直前まで行われていた東京オリンピックに目を向けていただろう。
「人々に夢を追いかけることの素晴らしさを思い出してもらうために、気力、体力を尽くしたプレーで、この夢の甲子園で高校球児の真の姿を見せることを誓います」。
コロナで気が沈みがちだが、そんな中でも夢をあきらめない。その素晴らしさを全力プレーで見せる。
今大会での選手宣誓には、以上のような思いが込められていたと推察する。
―素晴らしい選手宣誓とともに開幕した103回選手権大会。これから熱戦の火ぶたが切られようとしているー
次回へ続く